もし会社で聴覚障害者と同じ仕事をする機会があったとき、きこえる側の人は「手話を覚えた方がいいのかな?」と迷っちゃうことがありますよね。
僕も実際に会社の人に「手話覚えた方がいい?」と聞かれたことがありました。
でも、結論からいうと「無理に手話を覚えなくてもいい」と僕は考えています。
なぜ聴覚障害者の当事者である僕が手話は必要ないといえるのか、自身の体験談を交えてその理由をお話ししていきます。
この記事に書いてあることは、いち聴覚障害者である僕個人の感想です。「会社の人に手話を覚えてほしい!」という考え方をするきこえない人もいるので、僕の意見だけが絶対正しい!とは思わないでくれたら嬉しいです。
職場でのコミュニケーションに手話が不要な理由
僕自身が会社で「手話を使いたいなあ」と思わない理由をまとめました。
手話ができない聴覚障害者もいるから
身も蓋もない話なんですけど、そもそも手話ができない聴覚障害者もたくさんいます。
「聴覚障害者は全員手話ができる」という前提自体が間違ってるんですよね。
大きくなってから聞こえなくなった中途失聴者だけでなく、生まれつき耳が聞こえない人も手話ができない場合があります。
なぜかというと、聞こえない子どもの療育方針には「日本語で育てる」「手話で育てる」などといったさまざまな選択肢があるからです。
「日本語で育てる」方針で育てられた先天性の聴覚障害をもつ人は、手話に触れる機会がないまま大人になることも多いです。
僕の親も「日本語で育てる」方針を選んだから、僕は幼いころは日本語だけで生きていました。
僕は大きくなってから手話を覚え始めたのですが、小さいころから使い慣れている日本語と違って、手話で自分の気持ちを100%正確に伝えるのはすごく難しいです。
こんな風に手話を使わない聴覚障害者もいるので、聴覚障害者と一緒に働くことになったからといって手話を覚える必要はないと僕は考えています。
僕は使い慣れた日本語の方が意思疎通しやすいです
簡単な単語程度なら口頭でも伝わるから
仕事では「○○やって」とか「コピーとって」とか簡単な指示を行うことも多いです。
単語程度の短いやりとりであれば、僕は指示を出した人の口を読んで言葉を理解できるので、手話は覚えなくていいと思っています。
「聴覚障害者との接し方」を伝えるときには、よく「挨拶など簡単な単語だけでも手話を覚えるといいですね」という話が出ます。
でも僕自身は挨拶くらいだったら、目を合わせて会釈して「おはよう」と言ってもらえたらわかるんですよね。
もし「おはよう」と言ってるのがわからなかったとしても、会釈さえしてくれたら「今挨拶してくれてるな」というのは全然問題なく伝わります。
挨拶とか簡単な単語程度だったらその場の空気でだいたい伝わるので、僕は手話がなくてもコミュニケーションがとれています。
手話を1から覚える労力が大きいから
僕が手話を覚えなくていいと主張するもうひとつの理由は、「手話を使えるようになるまでには時間がかかるから」です。
というのも、学生の時に英語を1から覚えるのってすごく大変じゃなかったですか?
「ハロー」「ディズイズアペン」くらいならサクッと覚えられるけど、「これはペンです」だけじゃまともな会話ができないじゃないですか。
「私は3回テニスをしたことがあります」という文章だけ暗記したところで、英語で会話できるようなレベルには程遠いのが現状なんすよね。
手話も同じで、単語やら文法やらを1から覚えるのはすごく時間がかかってしまいます。
手話も日本語や英語と同じで1つの独立した言語だから、片手間でサクサクと覚えられるような代物ではないんです。
僕自身が手話を使ってて「手話って単語以外にもいろいろと覚えることがあるな」と感じたので、職場で会う程度の関係性で手話を覚えるのはおすすめしません。
手話のかわりになるコミュニケーション方法
では、聴覚障害者とどうやってコミュニケーションをとったらいいのかというと……
ズバリそれはケースバイケースです。人によって「口を読んで話す」人もいれば、「全部筆談じゃないとわからない」という人もいます。
なので聴覚障害者と初めて話すときは「どうやって話したらいい?」と声かけしてもらえると僕はすっごい嬉しいです!
口の動きを読む/声を聞く
きこえない人も、簡単な単語程度なら口の動きを読んだり声を聞いたりして言葉を理解できることがあります。
とはいえ口を読む・声を聞くのは個人差が大きくて、人によって「口頭でほぼ全部わかるよー!」という人から「単語すらわかりません…」という人までいます。
僕の場合は重度の聴覚障害をもってるので、声を聞くことはできなくて相手の口の動きを読んで会話しています。
ですが、話し相手のなかには口が読みやすい人・読みづらい人がいます。
読みやすい人は口頭でほぼ全部読み取れることもあるけど、読みづらい人は口形がまったく読み取れないことがあります。
人によって精度が大きく違うので、口を読むのは確実性に欠けるコミュニケーション方法です。
筆談
人によって口の読みやすさに激しく差があるので、僕の場合は筆談で会話することが多いです。
筆談は時間はかかるけど、口を読むのと違って意図を正確に伝えられるので、重要な事柄の伝達や上司との1on1なんかにはめちゃくちゃ使えます。
筆談は紙を使ってもいいけれど、僕の場合は電子メモパッドの「ブギーボード」とスマホの文字入力機能を利用しています。
音声認識アプリ
僕の会社では朝礼もあるので、そのときは「UDトーク」という音声を文字に変換できるアプリを使っています。
朝礼など上司の話を静かに聞く場面ではある程度正確に言葉を拾えるので、「だいたいこんなことを言ってるな」という雰囲気くらいはつかめます。
ただミーティングや昼食時の雑談など、複数人がいっぺんに喋る場面では認識の精度がガクッと落ちます。
また、UDトークの無料版は録音したデータをUDトークの開発部に送信することになります。
音声を分析して認識精度の向上のために活用されるため、お客様の個人情報など機密情報を扱う会社では使用しないor法人向けプランを使うのがベターです。
手話を覚えた方がスムーズに会話できそうなパターン
逆に「こんなときには手話があると便利だなー」と感じた場面もいくつかあります。
前述したとおり手話ができない聴覚障害者も多いので、手話を使う場合も本人に「簡単な手話とか覚えた方が話しやすい?それとも他のコミュニケーション方法がいい?」と確認をとってほしいです。
仕事柄マスクが必要な場面
たとえば食品製造の仕事など、衛生面を保つための規則でどうしてもマスクをつけなきゃいけない仕事もありますよね。
マスクをした状態では口の動きが読めなくなるので、「○○行って」という簡単な単語すらまったくわかりません。
なのでマスクが必要な職場では「○○(作業内容)」とか「休憩」とか意思伝達に必要な単語を覚えてもらえると、わざわざ筆談しなくてもスマートに伝わります。
今コンビニにある「袋必要or不要」みたいな指さしカードを作って代用する手もありますね。
その辺は聴覚障害者本人と話し合って「じゃあ手話の単語を覚えて、指示したいときに使うね」と、お互いに納得したうえでどのコミュニケーション方法を選ぶか決めましょう。
数字やアルファベットなど口頭で伝わりづらい単語
これは意外と盲点なんですが、数字やアルファベットは口の形が似ているものが多く、かなり読み取りづらいです。
たとえば「いち(1)」と「し(4)」、「しち(7)」など数字は口の形が同じに見えるので、区別がつきません。
「いち」「よん」「なな」という言い方に変えたら比較的伝わりやすいかとは思いますが、これは素直にジェスチャーで表した方が楽です。(いや手話じゃないんかい)
また、「C」と「G」などアルファベットも口の形の区別がつきません。
そこも聴覚障害者本人に「数字とか口頭で伝わりにくいみたいだけど、どんな伝え方をしたらいい?」と尋ねてもらえたらいいかなと思います。
雑談をする場面
会社によっては、休憩時間をみんなで一緒に過ごす社風のところもありますよね。
僕のところは各々外へ出てごはん食べてるので気楽なんですけど、そうじゃない会社だと1時間気まずい空気になっちゃいませんか?
さっき「僕は音声認識アプリを使ってますよ」と伝えたけれど、複数人で一斉に喋る場面ではどうしても誤変換が多くなって話の内容がさっぱりわからなくなってしまうんですよね。
そうなると聞こえない人は話に入れなくなるので、もし余裕があったら手話を覚えるのもアリなのかなと思います。
さいごに
もし会社に聴覚障害者が入ってきたら、手話を覚えた方がいいのかな?という疑問について僕の考えをお話ししました。
いろいろと語ってきましたが、結論としては「本人に聞いて確認してくれ!以上!」となりますw
聴覚障害者の中には手話ができない人もいるので、本人に確認をとらないで先走って手話を覚えちゃってもコミュニケーションがとれないんですよね。
そういう理由から、僕自身は「手話を覚える必要はない。手話以外にも筆談などコミュニケーション方法はあるから」と考えています。
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